幻の白いドームを見に〜白山で山スキーデビュー
突然ですが、私が生まれて初めてスキーというものをしたのは去年のことでした。
今年、2回だけスキー場で練習をし、空荷でシュテムターンができるようになりました。
もっといっぱい練習して、いつか山スキーができたらいいなあ、いつか・・・
鬼 「 今 で し ょ 」
Σ(*・д・ノ)ノ
ええっと……
鬼 「いけるいける、大丈夫」
ほ、ほうか……?
鬼 「滑れないときは歩けばいいし」
そう仰るなら……。
というわけで、利尻バリエーションが潰れてしょんぼりしていた私をまんまと騙して慰めようと、鬼ことみつお氏が山スキーの指導がてらご一緒してくれることに。
人生4度目のスキー、初めての山スキーとして、滝壺に雪と氷の巨大なドームが形成されるという百四丈滝を求め、GW後半に2泊3日の白山。
バスを降りたら、板を背負い(シートラというらしい)、林道をてくてくいきます。
後に待つ試練を、このときはまだ知るよしもなかった……
小雨の降る中、慣れない兼用靴を履き、雪が充分にあるところまで、シートラで藪の急登を登っていきます。
板に藪がひっかかりまくって大変!!
靴も歩きにくい!!!
それでも雪がつながってシール歩行を始めると、快適にさくさくと進んでいきました。
つぼ足やわかんが馬鹿らしくなるくらい、すーいすい。ツリーホールもなんのその!
スキー、文明の利器や……。
とろけるような甘い色の空。
ひんやりと頬を撫でる風。
空気や色が刻一刻と繊細に移ろう夜と昼との境目の時間は、山で過ごす最も好きな時間のひとつです。
最初の藪漕ぎに手間取ってしまったためヘッデン行動になってしまいましたが、無事に小桜平避難小屋に到着しました。
避難小屋は新築の木の香りが気持ちよく、立派なお手洗いもある快適空間!
さてさて翌日は遅めの行動開始。
目を覚まし小屋の外に這い出てみると、どっっぴーかん!!
ひゃー! ひゃー! ひゃーーーー!!
今日は白山アタックのみなので、のんびり進んでいきます。
なだらかな斜面を、シュッパシュッパ。
雲海と、青空と、雪と、柔らかな日差しと。
極楽極楽。
このあと、斜面がクラストしてきたのでクトーを装着。
風も強い。
ほどなくして急斜面をトラバース。
これまでにも増して風は強くなり、
雪の下が凍っていて、ずるずる落ちていく。
アイゼンにピッケルならばなんてことはない風と斜面なのですが、足下は滑りやすい大きい板に初めて履くクトー、雪に刺さるものと言えばストックの先っちょだけ。
じっとしていると勝手に意図しない方向へ滑っていってしまう。
こんなときにどんなふうに足を使えば、どんなふうに手を使えば。
こわくてこわくて、山でこんなにこわいことが未だかつてあっただろうかというほどにこわくて。
こわい、と何度も叫ぶけれど、ロープをつないでいるわけでもなく、助けに来てもらえるわけでもないので、その数十メートルをなんとか必死にこえました。
で、もうすっかり精神的にまいってしまったので少し調子を整えたかったのですが、パートナーのほうは「こんなんよくある」と言いながら止まることなく引き続き上へ。
とにかくついていかなきゃと、恐怖で震える足を諫めながら進んでいると、今度はアイゼンに履き替えろという指示。
え、ここ、急斜面やし、クラストしてるし、風強いし、立ってるだけでスキー滑っていくのに、え、よりによってここで履き替えるの……
でもまあ先の状況を見て指示を出してくれたんだろうと思い、慣れないスキー装備を、落とさないように、自分も落ちないように、手順を考えつつ、なんとか履き替えました。
慣れたアイゼンを履けたことだし、長い時間待たせているからとスキー板を抱え急いで登っていくと、こんどは「ちゃんとザックにつけとかなきゃ危ないでしょう!!!」と怒られる。。
さすがの私も、「山でスキーはいたの初めてで、いきなり怖い急斜面で、どんなふうに履き替えたらいいかもわからないのに、一人で取り残されていきなり全部完璧にできないよ」と言い返す。
山で死んだら誰にも何にも言い訳なんてできないのも、どんなに危ない状況でも初めての状況でもちゃんと自分で対処しなきゃいけないのも、百も承知なはずなのに、なんだかもう、あまりの怖さでいっぱいいっぱいで、かたや慣れて余裕の表情を浮かべているパートナーがどうしてもうちょっと配慮してくれないんだろうという思いもあって、つい甘えたことを言ってしまった。
スキーが怖いだけでなくて、怖さでいっぱいで周囲が見えなくなっていることも怖くて、とにかく、すっかり駄目でした。
ここから先、大汝峰に着いて座ってしばらくするまで、ずっとガタガタ震えていました。
きちんと自分の思っていることを言えたらよかったんだけれど、襲ってくる恐怖とちゃんとしなきゃという思いとで、パートナーにどうして欲しいのか自分でもよくわからないまま言葉も見つからず、大丈夫だよと笑ってはぐらかしながらずっともやもや。
このときの恐怖で、スキー板を履くことそのものがすっかりトラウマになってしまって、履くだけで身体が硬くなり膝ががくがく、胸がばくばく。
ただでさえ下手くそなスキーが、もう本当に全く滑れない。
自分でどうにかしなきゃ、とにかくついていかなきゃと思うほどいっぱいいっぱいになっていって、山はこんなにも美しいというのに心から楽しむことができませんでした。
これが翌日下山するまで尾を引くことに……。
翌日も、快晴。
いよいよ百四丈滝です。
小桜平からは小さなアップダウンがあり、なかなかスキーの活躍する場がありません。
でっ、でーん!
でかい!
ほんまにドームができてる!
いまいちのびのびとした気持ちになれていなかった私も、
思わずテンションが上がります。
パートナーはスキーでとっとと滝壺の方へ滑り降りていきます。
私は、アイゼンピッケルの圧倒的安心感に甘えててこてこ小走りで下っていきました。
快晴の雪山で水しぶきを浴びながらのんびりと滝を楽しむ。
おそるおそるのぞき込んでみても、暗くて底は見えません。
「これ、美味しそうだよね」
「プリンみたい」
「巨大牛乳プリン!」
「たべたい……」
「好きなだけ食べられるね」
「……じゅる……」
(以上、脳内会話)
巨大牛乳プリンを振り返り振り返り、加賀禅定道のほうへ登り返します。
白山のたおやかな風景を楽しみながらの快適な歩きです。
ちょっと暑いけど。
スキーにさえ乗らなければ快調なのさ!(駄目
緩い斜面を見つけては板をはくようすすめられるけれど、言われれば言われるほど頑なになってゆく心。
板に乗る気になんてなれない。ユウウツな気分になって黙り込む。
ああ、パートナーにイライラさせちゃってるかもなあと思いながら黙々と歩いていました。
山スキーなんて嫌い、大っ嫌いだ、と思いながら歩いていても楽しくない気持ちが大きくなっていくばかり。
ネガティブな気持ちで満たされていてはせっかく山にいるのにもったいない!
これはあかん!!
と思い直し、
置いてけぼりくらっているのをいいことに一人で立ち止まり、目を閉じて、鳥の声を聴き、風を感じてみる。
ほのかに春の生命感が山を包んでいることが全身で感じられて、山で目に映るあらゆるものが愛おしく感じられる。
ああ、やっぱり好きだなあ。
幸せだなあ。
で、いつもの山らぶらぶな自分のペースを取り戻しました。
あとはもう、シートラ藪漕ぎルンルンです。
藪にひっかかるのなんて山とのスキンシップのうちなので、ひっかかるたびに「んもう〜♡」って感じです。
素晴らしい。
ビバ藪漕ぎ。
そんなこんなで下山してみたら、史上最大級の靴擦れが発覚し、両足とも膝から下がぱんぱんに腫れ上がり、翌日の山行はおあずけに。
ああああ。
かわりに金沢のエリートヒルクライマーWAKA氏とともに能登半島を一周。
靴擦れした足を海水にちゃっぽんして死ぬかと思った。
こんなことになりながら「山スキーは楽しいから! ほんとだよ!」と言い張るパートナー氏の営業力の低さに苦笑いしつつも、
とりあえず来シーズンはスキーの練習くらいしといてやってもいいかと思ってしまう私は山に弱い。