山らぶ

山が好きすぎて困っています。

台高・東ノ川本流〜小人さんになって〜

なんだか面白そうだと思って前々から機会をうかがっていた沢。

東ノ川と書いて「うのかわ」と読みます。

今回、3連休のうち2日があいたので、大台ヶ原の駐車場に前夜泊して1泊2日で行ってきました。パートナーはみつお氏

 

 

1日目(10月13日)

 

 

毎度おなじみ深夜のデスドライブ(私は爆睡)のあと3時間ほど仮眠して目覚めると、風が吹き荒れガスで視界もなく実に寒い。

さらには、朝食に用意したカップラーメンを待っている途中でスープを紛失し、大変味気ないキムチラーメンになってしまった。

さすがの私も、眠気+寒さ+変なラーメンでテンション低い低い。

ぬくぬくして美味しいもの食べていっぱい寝たいよう。

そういや今年最初の冬型が決まるって言ってたっけか。

北アで吹雪かれる人々のことを思えば100倍くらい暖かいな。

せっかくがんばってここまで来たのにキムチラーメンが不味かったから遡行断念しましたじゃあカッコ悪いな。

……行くしかないな。重い身体をのそのそ動かし準備する。

 

それでも、装備を身につけ歩き始めてみれば、いつもの通りるんるんワクワク!

ウキウキスキップしてこけたりしつつ静かな登山道をゆき、

まずは白崩谷を下降する。

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荒れていたのは大台ヶ原の上だけで、少し下ればとてもいいお天気。

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2,3の大滝を空中懸垂を交えながら下っていく。

東ノ川のアプローチだと思ってあまり着目していなかったけれど、キラキラまぶしい木漏れ日と相まってとても美しい谷だった。

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林を抜ける風が爽やか。

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ゴーロ帯に入ってから、初めての巨岩に出くわした。

でかい。

岩の近くだけ、なんだか空気が違っていた。

ふっと風が立ち止まっているような、日だまりの温かさと岩陰の冷たさがマーブルのままそこに留まっているような、不思議な空気だった。

 

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お昼も近づき、日差しはいよいよ強く。

よく洗われた白い岩に、キュッキュとゴム底をきかせながら進む。

暑い。非常に暑い。

熱中症にでもなりそうなくらい暑い。

10月なのに! てか今朝寒かったのに!

 

さらにはみつお氏が「もうちょっと先まで」とか言いながらなかなか休憩を取ってくれず、おなかが空きすぎて朦朧とする。ふらふら。

私は足や身体が疲れる前におなかが空いてエネルギー切れでダメになるタイプなんだけれど、「おなかすいた」が「疲れた」より深刻なSOSだとはなかなか理解されないらしい。

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このへんずっと、高級料亭のお吸い物みたいな美味しそうなダシのにおいがしていた。とても香しかった。でもそんなん言ってるの私だけだったから空腹のあまり生じた幻覚だったのかもしれない。

 

ふらふらの足と力の入らない腕、何も考えられない頭、半開きのまぶたを抱え、死にそうになりながら進む。もうほとんど泣いていた。とにかくつらかった。

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お昼過ぎに東ノ川出合に着いて、ようやく休憩!!!

よほど悲愴感溢れる瀕死の表情だったのだろう、私を見るなり焦って「ごめんね! おなか空くのがそんなにつらいって知らなかった! ごめんね!」と言い、エネルギー再充填できるまでいっぱい食べて休めと言ってくれた。

レーション3回分くらい食べたらあっけなく元気もりもりに復活。

そうなのよ。

食べさえすれば動けるのよ。

 

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ここからはいよいよ、眼前に巨大な嵓を仰ぎ見ながら東ノ川本流を遡行!

白崩谷の長い長い下降がなかなか足にこたえていて、筋肉痛よりもっと走るような痛みが両足にある。けど、行けるので行く。

  

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岩の隙間を空身でくぐり抜ける。

 

そうなのです東ノ川といえば巨岩なのです。

一軒家やダンプカーみたいな巨岩がそこらじゅうゴロゴロしているのです。

 

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問われる巨岩マネジメント能力。

 

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巨岩で埋め尽くされた谷は、そそり立つ嵓に囲まれている。

この嵓の上に、ぽっかりと大台ヶ原が乗っかっている。

みつお氏は「まるでギアナ高地みたいだな」とつぶやき、何度も足を止めては嵓を見上げていた。

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(こういう露天風呂ほしい。)

 

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巨岩の間を縫うように登ってゆく。

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だんだん、物の大きさについての感覚がよくわからなくなってくる。

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まるで小人さんになって探検してるみたい!

 

ちょうど14時くらい。

巻かなくても行けそうな雰囲気だったけれど、あるみたいだしちょっと行ってみようかと言って入った巻き道。目印のテープがあるのでイージーだなと安心してそれを追っていく。

テープが下の方に続いていたので沢筋に戻ってみると、中級の沢にしてはやけに高度な沢技を要求される箇所が立て続けに出てきた。勢いよく流れる滝の落ち口でツルツルのスラブに向かって1 mほど飛ぶ(ただし確保支点なし)、みたいなのとか。

これはおかしいよ、まだ巻き終わってなかったんだよと言ってみるものの、みつお氏は「いやまあ、上級沢ならこのくらいのことはあるよ」と言って先へ進んでゆく。ここ、中級沢やねんけど……。

なんとかかんとか進んでみるものの私にはあまりに厳しく、いちいち時間を食う。1時間ほど経ち、沢もやや暗くなり空気もひんやりしてきた。

やはりこれはルートファインディングをミスったかもなということになり引き返す。

岩に引っかかっていた流木の根に残置スリングを巻いて懸垂下降したりしつつ、もとの巻き道へ。ちょっと先へ進んでみたら、引き続き巻きの目印が続いていた。

ひぃ〜〜こわかったー!!

 

でも、ときどき想定外の出来事が起きたりするのも楽しいな。

知恵を使うし、本気になるし、集中する。

すごく楽しい。

これでこそ山で遊んでるって感じだよ。

 

中崩谷の出合いあたりの左岸にちょうど良い幕場があり、この日はここでおしまい。

そそくさと起こした焚き火にあたりながら頬張るカレーのうまいことうまいこと!

盛りだくさんな一日だったなぁと充足感に満たされ、就寝。

立合川マダニ事件の反省を生かしテント持参で完全防御していたおかげで、快適な睡眠を得ることができた。

 

 

2日目(10月14日)

 

 

幕場から沢筋へ降り、朝の冷たい水をちまちまと避けながら進むと、地獄釜滝。

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落差としては25 mだけど、勢いのある水がまっすぐに岩を滑り、大岩に囲まれ薄暗くなった釜を刺すように落ちる。

なかなかかっこよかった。

 

地獄釜滝の左岸を巻く途中で、ちょうど1人か2人分のビバーク道具が散乱した状態で残っていた。

その人たちがどういう事情でここにビバークを張りどんな顛末をたどったかはわからないけれど、なんだか胸騒ぎがした。自分がいつそうなるかわからない。気を引き締めないと。

 

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明るめのゴルジュを進むと、

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東ノ川最大の巨岩帯へ突入。

いよいよクライマックスの始まりです。

 

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無数の巨岩をよじよじしながら楽しく進む。

ステルスのフリクションがよく効く岩で、快適♪ たのしい♪

そうこうしているうちに、噂に聞く巨岩三兄弟(参考:京大ワンゲル部ブログ)長男ラオウの登場!

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谷を完全に塞いでいる、むしろはみ出している。幅は何十メートルか。

写真では、周囲の岩もでかいし近づくと収まりきれないので実際にどのくらいのでかさなのか全然伝わらない。残念で仕方ない。

参考までに、ラオウの右端の一番細くなってるところに身長186 cmの人間が立った写真がこれ↓

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どうです。少しは感じていただけたでしょうか。

 

ラオウの右の隙間には滝が流れていて、そこを登っている記録もあったけれど、水量が多くなっていて少し難しそう。仕方ないので左岸を高巻いていくと・・・

 

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全貌は見えないけどやったらでかい滝が!!!!

うおおおおおおおと進むと、

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手前に西ノ滝(150 m)、奥に中ノ滝(245 m)。

もはや桁がおかしい。おかしいよ。

さらに近づくと西ノ滝の水しぶきが太陽に照らされ、まるで幻のように鮮やかな虹が。

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大滝を眺め、現実味のない空間に酔いつつ大休止を打った。

本流ともこれでお別れ。ここからは支流のシオカラ谷に進む。

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たびたび振り返って西ノ滝と別れを惜しみつつ。

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相変わらず嵓はでかでかとおっ立っていて、マルチピッチのルートに取り付いているクライマーもいた。

こんなに最高のお天気とコンディションだというのに誰にも出会わずに登ってきたから、同じ空間を楽しんでる誰かがいるというのが嬉しくて思わず壁に向かって「ガーンバ!」と叫ぶ。

無論、数百m離れたところにいるクライマーからは何の反応もなかった。

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夏のような日差しと秋の足音。

 

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ちょっとしたゴルジュを抜け、

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滝を快適に登る。ちょっとぬめってるくらいも、愛嬌があっていいね。

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やがて最後の滝、東ノ滝(25 m)に到着する。

左岸から巻き、落ち口に降り立つと、そこにはまさかの・・・

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美しいナメが。

色づき始めた木々と白い岩、完璧なタイミングで斜瀑が落ちる様は風光明媚そのもの。

これまで散々非人道的な巨岩と桁がおかしい滝で我々を圧倒しておいて、最後の最後にこのデレである。

もう、まいっちゃう。

しやわせ。

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ナメはさらに長く続き、癒やされて嬉しくてナメとぺちゃぺちゃ戯れた。

標高が上がるにつれ空気が湿気を帯び、小雨が優しく顔を打つ。

さすがは1週間に十日雨が降ると言われる大台ヶ原である。

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やがて傾斜がなくなり、ハイカー達の声が聞こえ、私たちの沢旅は終了した。

 

東ノ川、とても強烈な個性のある谷だった。

くせ者で朴訥としてる筋骨隆々なイケメン、そして仲のいい人にだけめっちゃ優しい、みたいな?

いや、たとえがおかしかった。

ほかの沢でも感じることだけれど、地球(というか日本)にこんな空間が隠されていることへの驚きと、その現実味のなさに感覚が狂っていく心地よさがあった。

 

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雲の中を歩いて駐車場へ。

 

はるばる東京からやってきたみつお氏がせっかくだから頂上を踏みたいと言うので冷たい雨に打たれながら日出ヶ岳山頂まで往復。

寒いし何も見えないし濡れるし遊歩道滑るし車のキーは開けっ放しできちゃったしで早く帰りたかったんだけど、みつお氏も同じ事を思っていたらしい。

それでも山頂にこだわるあたり、山屋なのか。うん?

車で林道を下ると嘘のように晴れて、暑くて、やっぱり大台ヶ原の上だけ雨だったんだねと言いながら京都へ戻った。

 

帰り道、みつお氏から「みなぽちゃんすごく安定感があったね」とお褒めの言葉をいただいた。立合川のときズルズルで登れない私を見て「なんだよもっと練習してこいよ!」と内心思っていたので、今回やけに足取りがちゃんとしているのを見て急成長したと思ったらしい。

実は立合川のときはフェルトソールのせいで登れないこと多々で、その反省を踏まえて今回はステルスソールで来ていた。したがって登攀力とか沢登りの足周り技術が急激に上がったわけでは決してないのだけど、それでも、シーズンを通してみれば見違えるほど上達したのだろう。きっと。

だって、私も、自分の力で登っている感じがして気持ちよくて楽しかったんだもの。

行く度に力がついている実感があって、できることが増えていって、それがまたなおさら楽しい。

 

沢シーズンももう終わり。

季節の移り変わりは本当に目まぐるしい。

もっともっとと思っていても、待ってはくれない。

でも、必ず次のシーズンはやってくる!

相変わらず行きたい沢は増えていく。

充実した素晴らしいシーズンと、一緒に行ってくれた人々に大感謝。

 

これからも楽しみだなぁ。