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山らぶ

山が好きすぎて困っています。

いざ憧れの険谷へ〜台高・銚子川岩井谷遡行/往古川真砂鬼丸谷下降【中編】

sawa

(1日目の遡行内容は前編へ

 

【2日目】2014.8.15

 

夜に降った強い雨で心配な夜を過ごしたが、明るくなって目覚めたときには雨は止んでいた。

沢の水位を見ると、ほんの5 cm程度増えているだけ。

ほっと胸をなでおろす。

寝ぼけながら回収したプリンには少し水がたまっていたけれど、無事に美味しくいただいた。

今日は、連瀑帯にゴルジュに大滝と、息つく間もなく核心が現れる。楽しみだ。

 

さて、6:15 梅ノ木谷出合を出発する。

明るい左俣ではなく、暗く狭い右俣へ。

すぐに両岸を崖に阻まれた長い連瀑帯が始まる。

しょっぱなから登れない滝なので2つまとめて右岸から巻く。

HRMT氏はおなかを壊しているらしく、巻き始めてちょっと行っと思ったら慌てて出合まで引き返していた。寝不足、もしくは、プリンに貯まっていた水で一晩かけて栄養たっぷりに育ったバクテリアの仕業か。私は元気ピンピンだが。

さて巻き終えると今度はかっこいい18 mの滝が現れる。

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しばらく見とれていたいが、まだ一日の序盤なのでのんびりはできない。

やや傾斜が寝ているので一応滝の脇を直登できないかと可能性を探るが、下段を登れたとしても上段の水量があまりに多くてダメだ。もう少し水が少なくて岩が乾いていれば行けただろうにと後ろ髪を引かれつつ、左岸から巻きに入った。

ここからは怒濤の高巻き合戦。小尾根に上がり、次に続く10 m滝もまとめて巻く。

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綺麗な末広がりの、いわゆる銚子の形をした滝だ。よく見ようと近づきたくなるが、ここは巻きの途中でしばし眺めるに留める。

この巻きのルートも薄いトレースはあるが、ところどころわかりづらく、あくまで注意深いルーファイが必要。高度と傾斜があり緊張感がある。

しかし岩井谷はどの巻きにもトレースがあって驚いた(とともにちょっぴり残念だった)。思っていたよりずっと人臭い。みんな結構来てるんだな。

さて沢筋からあまり離れすぎないよう途中で小尾根を外れ一旦沢筋に戻るものの、目の前に18 m滝が行く手を阻み、引き続き左岸のガリーから巻く。もう、しょっぱなからずっと巻いてばっかりや。沢を歩かせてくれ。

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この巻きも相変わらずトレースがあったが、1ヶ所、短いが傾斜の強いクラックがある。しかもズルズルヌメヌメ。見るからに悪いので他にルートを取れないかキョロキョロするが、やはりそこを通るしかなさそう、観念して取り付くことにする。

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それにしてもヌメリがひどく使えるスタンスも少ない。私一人なら途方に暮れるところだが、ここはパートナーが残置ピトンにあぶみをかけてゴリ押しであっさり突破、紐を垂らしてくれた。「全然余裕、いけるいける〜」とかいう呑気なかけ声に従いさて離陸…しかけてズリッと着地。どこが余裕なんじゃい。そうして幾度かズリズリしながらも雄叫びを上げ、決死のゴボウで突破した。

……ゴボウの分際が決死も突破もないが、まあ、そのくらい追い詰められた気分でゴボウした。

 

8:10、ようやく巻きを終え滝の落ち口に降りたった。ものすごく久しぶりに(というか今日ほとんど初めて)まともに水に触れる。嬉しい。美味しい。

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ここからしばらく平流を歩くとゴルジュが始まる。登れない滝に出会ったり、

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泳いで楽しくCSを登ったり、

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また泳いでは登り、

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泳いでは登り…

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日が高くなり、晴れ間も見える。泳ぐにはもってこいの日だ。真夏の沢登りはこうでなくっちゃ。沢との一体感も高まってゆく。

やがてゴルジュが開け、ナメが広がる。

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多幸感の中てくてくと歩いて行くと、

ばばーん!と岩井谷大滝が現れた。

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見た瞬間に鳥肌が立つ。神々しい滝だった。直下に広がるナメは台座、左右に大きく広がってそそり立つ岩壁は光背、大台ヶ原は大伽藍。そうして大険谷の奥に鎮座して尾鷲灘を見下ろす、まさに秘仏

しなやかで大らかな佇まいに母性さえも感じる。

ここで大休止を打ち、心ゆくまで堪能したあと、左のルンゼから灌木を使いながら直上する。傾斜が強く岩も脆いので、慎重に。HRMT氏さすがのルーファイでどんぴしゃ落ち口に出た。

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ここからはゴルジュと連瀑帯が始まる。

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手元の資料では巻きながら進んでいたが、気力も体力も有り余っていたので岩井谷との別れを惜しむように全て直登で突破していく。

…というとカッコイイが、ほんとのところ、私はちょいちょい巻こうとしていた。ところが「行ってみるだけ」と言うパートナーに試しに行かせてみるとあっさり突破しちゃって、「ええ〜行っちゃったよ〜・・・」とぼやきながらも仕方なくついて行かざるを得ない。リーチ差がかなりあるので、当然その分辛いムーブを強いられる。

というかゴルジュつっこんじゃったから今更引き返して巻くなんてできない。世間は8月、晴れてるはずなのに、ここは日が当たらずガタガタ震える。一刻も早く日向へ行きたい。

 

さらに泳いで取り付く滝が現れる。これまでより一段と厳しそうだ。

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この滝は小さいけれど、かなり悪かった。

泳いで取り付くとツルツルで外傾した小さなスタンスしかなくて、しかも容赦なく降り注ぐシャワーで前も見えず、申し訳程度に唯一取ってあったカムの支点はちょっと引っ張っただけでポロっと取れ、上から垂らしてもらったあぶみは低すぎて役に立たず、そうこうしているうちに身体が冷え指先の感覚もなくなっていく。が、登らないという選択肢は存在しえない。

腹の底にぐいっと力を込め、悪態とも雄叫びともつかぬわめき声を上げながら、本日2度目となる決死のゴボウ。

 

はー、ゴルジュはもうおなかいっぱいだよ〜。

 

とはいえ登れる人がロープを伸ばしてくれるおかげで自分ではとても突っ込めないゴルジュを堪能でき、かなり楽しかった。ありがたい。終わってみればそう思える。

ここでゴルジュは終わり、連瀑帯をサクサク越えると、やがて3段30 m滝が現れる。岩井谷最後の大きな滝。

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ここまでロープを出す場面ではトップを任せきりだったので、ここは私がリードを申し出た。左の灌木に支点を取りつつ水線を登る。下から見たときはスタンスが豊富で快適なシャワークライムをイメージしたが、取り付いてみるとシャワーもヌメリもなかなか強く思いのほかラインは限られる。久々のリード、この感覚、やっぱり、とても楽しい。

20 mほど登ったところで横たわった灌木に行く手を阻まれ、仕方なく一旦ブッシュに入ってピッチを切り、残りはつるべでパートナーにトップを譲った。

 

落ち口に立ち振り返ると、突如青空が広がり、尾鷲灘とその向こうに浮かぶ島々まではっきりと見える。思わず歓声を上げた。

あの暗く寒いゴルジュの底で凍えながら叫んでいたのが嘘のような、広い空、海、暖かい風。岩井谷遡行を終えた感慨も相まって、充実感とすがすがしさでいっぱいだった。

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ここから源頭を詰めながらパートナーと相談する。

 

時間はまだまだあるね、余力は残ってる? 天気は持ちそうだ。よし、じゃあ予定通り真砂谷へ行こう。

 

岩井谷の源頭部は明るく美しいヒメシャラの疎林で、とても雰囲気が良い。薪も豊富。遡行の余韻に浸りながらここで祝杯を上げてのんびりと焚き火をするのはさぞかし良かろう。

しかし、我々が余韻に浸るのはまだ早い。

気持ちを切り替え、そそくさと真砂谷の方向へ稜線を越えていく。

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さすがの大台ヶ原、やたらと鹿の鳴き声がする。

真砂谷の源頭へ降り、16時過ぎ頃、適当に平らなところを見つけて幕場とした。

昨夜の焚き火は薪の湿気りで不完全燃焼気味だったので、この日はここぞとばかりに盛大に燃やした。さすがに疲れもあって少し気だるい。思う存分焚き火に当たり身体を温める。

 

ここで、一つアクシデントがあった。100均の草履で歩き回っていたら、土の下に隠れてていた根だか枝だかの先端が草履を貫通し私の右足裏に突き刺さったのだ。ダラダラと出血が止まらないし痛くてまともに足をつけない。

———しまった。

こんなことになるなんて。

沢水で念入りに洗って消毒し、ゲンタシン軟膏を厚々と塗り込んで絆創膏で蓋をした。頼むから、痛みだけでも治まってくれ。最悪、痛みが治まらなくても気合いで歩けば下山はできる。が、ここまで来たんだから真砂谷を下降したい。パートナーにも申し訳ない。

 

祈るような気持ちでシュラフカバーに潜り込んだ。

 

(後編に続く)