スキーの練習
スキーの練習をしています。
白山のエントリでも書いた通り、これまでの人生においてゲレンデで滑った回数は2回。
山でスキーを使えるレベルにはほど遠い(ならば何故白山に行った)。
今シーズンはがんばって山スキーやろうと、ディナフィットの軽い兼用靴(TLT mountain 5)を買いました。
足りない装備は優しいハッチ王子が一式貸してくれたので、シーズンインもままならないうちに鼻息荒く練習開始!
スキー場って雪が積もってから営業するんだと思っていたら、人工雪をつなげて細いゲレンデを作ったりするんですね。
知りませんでした。
11月頭に行った富士山麓のイエティは、うどんゲレンデ。
ひしめき合うボーダー達の間を縫ってえっちらおっちら教えてもらいつつ滑りの練習をしました。
そのあと雨が降って、うどんは冷や麦に。
滑る楽しさはありませんでしたが、修行だと思ってなんとかがんばりました。
山スキーのえらいひとたちと遭遇してかっこいい滑りを見せてもらったりがんばってと言ってもらえたりしたのでまたがんばっちゃおうと思いました。
*
11月の中旬は奥美濃へ。
Wしがたけのスキー場に行ったら、そこにはイエティの比ではない行列が。
待ち時間の長いこと長いこと。
ゲレンデから見える白山を何度も振り返りながら、なんとか気を紛らわしモチベーションを奮い立たせる。
コースの長さは1500 mもあって長いけれど、この狭いゲレンデで跳んだりはねたり転んだりのお祭り状態で、さらにはゲレンデの一部に石が露出している部分も。。
まだへたくそな私は、目の前に飛び出してきて転んだ人をよけきれずに自分も転んじゃったり、借り物の板で石を擦らないように気にするあまりへっぴり腰になったり。
挙げ句の果てには、後ろからジャンプしてきたボーダーがそのまま滑っている私に激突し、激しく転倒したおかげで左手首と左足首をひねり、さらにむち打ち状態で翌日は首も回らず……
障害物をよける練習にはなったものの、なんというかもう苦痛で楽しくなくてこわくて、お高いリフト券だけがモチベーションの砦。
休み休みなんとか午後まで滑って帰りました。
山に行くためじゃなかったらこんなのやってられない!!
このスキー練習ですっかりゲレンデに嫌なイメージを抱いてしまった。。
もうしばらく行きたくない。
広いゲレンデはもっと楽しくてのびのびしているらしいので、広いゲレンデがオープンするくらいの頃にはゲレンデ嫌いが緩和されるといいなぁ。
*
おくみのスキーでは、ゲレンデに対してイライラしてしまったせいで丁寧に練習しようという気概が薄れ、だいぶ雑な滑りになってしまいました。
反省。
へたくそはもっと人口密度の低いところで、滑ることに集中して練習せねばですね。
ああ。山いきたい。
台高・東ノ川本流〜小人さんになって〜
なんだか面白そうだと思って前々から機会をうかがっていた沢。
東ノ川と書いて「うのかわ」と読みます。
今回、3連休のうち2日があいたので、大台ヶ原の駐車場に前夜泊して1泊2日で行ってきました。パートナーはみつお氏。
1日目(10月13日)
毎度おなじみ深夜のデスドライブ(私は爆睡)のあと3時間ほど仮眠して目覚めると、風が吹き荒れガスで視界もなく実に寒い。
さらには、朝食に用意したカップラーメンを待っている途中でスープを紛失し、大変味気ないキムチラーメンになってしまった。
さすがの私も、眠気+寒さ+変なラーメンでテンション低い低い。
ぬくぬくして美味しいもの食べていっぱい寝たいよう。
そういや今年最初の冬型が決まるって言ってたっけか。
北アで吹雪かれる人々のことを思えば100倍くらい暖かいな。
せっかくがんばってここまで来たのにキムチラーメンが不味かったから遡行断念しましたじゃあカッコ悪いな。
……行くしかないな。重い身体をのそのそ動かし準備する。
それでも、装備を身につけ歩き始めてみれば、いつもの通りるんるんワクワク!
ウキウキスキップしてこけたりしつつ静かな登山道をゆき、
まずは白崩谷を下降する。
荒れていたのは大台ヶ原の上だけで、少し下ればとてもいいお天気。
2,3の大滝を空中懸垂を交えながら下っていく。
東ノ川のアプローチだと思ってあまり着目していなかったけれど、キラキラまぶしい木漏れ日と相まってとても美しい谷だった。
林を抜ける風が爽やか。
ゴーロ帯に入ってから、初めての巨岩に出くわした。
でかい。
岩の近くだけ、なんだか空気が違っていた。
ふっと風が立ち止まっているような、日だまりの温かさと岩陰の冷たさがマーブルのままそこに留まっているような、不思議な空気だった。
お昼も近づき、日差しはいよいよ強く。
よく洗われた白い岩に、キュッキュとゴム底をきかせながら進む。
暑い。非常に暑い。
熱中症にでもなりそうなくらい暑い。
10月なのに! てか今朝寒かったのに!
さらにはみつお氏が「もうちょっと先まで」とか言いながらなかなか休憩を取ってくれず、おなかが空きすぎて朦朧とする。ふらふら。
私は足や身体が疲れる前におなかが空いてエネルギー切れでダメになるタイプなんだけれど、「おなかすいた」が「疲れた」より深刻なSOSだとはなかなか理解されないらしい。
このへんずっと、高級料亭のお吸い物みたいな美味しそうなダシのにおいがしていた。とても香しかった。でもそんなん言ってるの私だけだったから空腹のあまり生じた幻覚だったのかもしれない。
ふらふらの足と力の入らない腕、何も考えられない頭、半開きのまぶたを抱え、死にそうになりながら進む。もうほとんど泣いていた。とにかくつらかった。
お昼過ぎに東ノ川出合に着いて、ようやく休憩!!!
よほど悲愴感溢れる瀕死の表情だったのだろう、私を見るなり焦って「ごめんね! おなか空くのがそんなにつらいって知らなかった! ごめんね!」と言い、エネルギー再充填できるまでいっぱい食べて休めと言ってくれた。
レーション3回分くらい食べたらあっけなく元気もりもりに復活。
そうなのよ。
食べさえすれば動けるのよ。
ここからはいよいよ、眼前に巨大な嵓を仰ぎ見ながら東ノ川本流を遡行!
白崩谷の長い長い下降がなかなか足にこたえていて、筋肉痛よりもっと走るような痛みが両足にある。けど、行けるので行く。
岩の隙間を空身でくぐり抜ける。
そうなのです東ノ川といえば巨岩なのです。
一軒家やダンプカーみたいな巨岩がそこらじゅうゴロゴロしているのです。
問われる巨岩マネジメント能力。
巨岩で埋め尽くされた谷は、そそり立つ嵓に囲まれている。
この嵓の上に、ぽっかりと大台ヶ原が乗っかっている。
みつお氏は「まるでギアナ高地みたいだな」とつぶやき、何度も足を止めては嵓を見上げていた。
(こういう露天風呂ほしい。)
巨岩の間を縫うように登ってゆく。
だんだん、物の大きさについての感覚がよくわからなくなってくる。
まるで小人さんになって探検してるみたい!
ちょうど14時くらい。
巻かなくても行けそうな雰囲気だったけれど、あるみたいだしちょっと行ってみようかと言って入った巻き道。目印のテープがあるのでイージーだなと安心してそれを追っていく。
テープが下の方に続いていたので沢筋に戻ってみると、中級の沢にしてはやけに高度な沢技を要求される箇所が立て続けに出てきた。勢いよく流れる滝の落ち口でツルツルのスラブに向かって1 mほど飛ぶ(ただし確保支点なし)、みたいなのとか。
これはおかしいよ、まだ巻き終わってなかったんだよと言ってみるものの、みつお氏は「いやまあ、上級沢ならこのくらいのことはあるよ」と言って先へ進んでゆく。ここ、中級沢やねんけど……。
なんとかかんとか進んでみるものの私にはあまりに厳しく、いちいち時間を食う。1時間ほど経ち、沢もやや暗くなり空気もひんやりしてきた。
やはりこれはルートファインディングをミスったかもなということになり引き返す。
岩に引っかかっていた流木の根に残置スリングを巻いて懸垂下降したりしつつ、もとの巻き道へ。ちょっと先へ進んでみたら、引き続き巻きの目印が続いていた。
ひぃ〜〜こわかったー!!
でも、ときどき想定外の出来事が起きたりするのも楽しいな。
知恵を使うし、本気になるし、集中する。
すごく楽しい。
これでこそ山で遊んでるって感じだよ。
中崩谷の出合いあたりの左岸にちょうど良い幕場があり、この日はここでおしまい。
そそくさと起こした焚き火にあたりながら頬張るカレーのうまいことうまいこと!
盛りだくさんな一日だったなぁと充足感に満たされ、就寝。
立合川マダニ事件の反省を生かしテント持参で完全防御していたおかげで、快適な睡眠を得ることができた。
2日目(10月14日)
幕場から沢筋へ降り、朝の冷たい水をちまちまと避けながら進むと、地獄釜滝。
落差としては25 mだけど、勢いのある水がまっすぐに岩を滑り、大岩に囲まれ薄暗くなった釜を刺すように落ちる。
なかなかかっこよかった。
地獄釜滝の左岸を巻く途中で、ちょうど1人か2人分のビバーク道具が散乱した状態で残っていた。
その人たちがどういう事情でここにビバークを張りどんな顛末をたどったかはわからないけれど、なんだか胸騒ぎがした。自分がいつそうなるかわからない。気を引き締めないと。
明るめのゴルジュを進むと、
東ノ川最大の巨岩帯へ突入。
いよいよクライマックスの始まりです。
無数の巨岩をよじよじしながら楽しく進む。
ステルスのフリクションがよく効く岩で、快適♪ たのしい♪
そうこうしているうちに、噂に聞く巨岩三兄弟(参考:京大ワンゲル部ブログ)長男ラオウの登場!
谷を完全に塞いでいる、むしろはみ出している。幅は何十メートルか。
写真では、周囲の岩もでかいし近づくと収まりきれないので実際にどのくらいのでかさなのか全然伝わらない。残念で仕方ない。
参考までに、ラオウの右端の一番細くなってるところに身長186 cmの人間が立った写真がこれ↓
どうです。少しは感じていただけたでしょうか。
ラオウの右の隙間には滝が流れていて、そこを登っている記録もあったけれど、水量が多くなっていて少し難しそう。仕方ないので左岸を高巻いていくと・・・
全貌は見えないけどやったらでかい滝が!!!!
うおおおおおおおと進むと、
手前に西ノ滝(150 m)、奥に中ノ滝(245 m)。
もはや桁がおかしい。おかしいよ。
さらに近づくと西ノ滝の水しぶきが太陽に照らされ、まるで幻のように鮮やかな虹が。
大滝を眺め、現実味のない空間に酔いつつ大休止を打った。
本流ともこれでお別れ。ここからは支流のシオカラ谷に進む。
たびたび振り返って西ノ滝と別れを惜しみつつ。
相変わらず嵓はでかでかとおっ立っていて、マルチピッチのルートに取り付いているクライマーもいた。
こんなに最高のお天気とコンディションだというのに誰にも出会わずに登ってきたから、同じ空間を楽しんでる誰かがいるというのが嬉しくて思わず壁に向かって「ガーンバ!」と叫ぶ。
無論、数百m離れたところにいるクライマーからは何の反応もなかった。
夏のような日差しと秋の足音。
ちょっとしたゴルジュを抜け、
滝を快適に登る。ちょっとぬめってるくらいも、愛嬌があっていいね。
やがて最後の滝、東ノ滝(25 m)に到着する。
左岸から巻き、落ち口に降り立つと、そこにはまさかの・・・
美しいナメが。
色づき始めた木々と白い岩、完璧なタイミングで斜瀑が落ちる様は風光明媚そのもの。
これまで散々非人道的な巨岩と桁がおかしい滝で我々を圧倒しておいて、最後の最後にこのデレである。
もう、まいっちゃう。
しやわせ。
ナメはさらに長く続き、癒やされて嬉しくてナメとぺちゃぺちゃ戯れた。
標高が上がるにつれ空気が湿気を帯び、小雨が優しく顔を打つ。
さすがは1週間に十日雨が降ると言われる大台ヶ原である。
やがて傾斜がなくなり、ハイカー達の声が聞こえ、私たちの沢旅は終了した。
東ノ川、とても強烈な個性のある谷だった。
くせ者で朴訥としてる筋骨隆々なイケメン、そして仲のいい人にだけめっちゃ優しい、みたいな?
いや、たとえがおかしかった。
ほかの沢でも感じることだけれど、地球(というか日本)にこんな空間が隠されていることへの驚きと、その現実味のなさに感覚が狂っていく心地よさがあった。
雲の中を歩いて駐車場へ。
はるばる東京からやってきたみつお氏がせっかくだから頂上を踏みたいと言うので冷たい雨に打たれながら日出ヶ岳山頂まで往復。
寒いし何も見えないし濡れるし遊歩道滑るし車のキーは開けっ放しできちゃったしで早く帰りたかったんだけど、みつお氏も同じ事を思っていたらしい。
それでも山頂にこだわるあたり、山屋なのか。うん?
車で林道を下ると嘘のように晴れて、暑くて、やっぱり大台ヶ原の上だけ雨だったんだねと言いながら京都へ戻った。
帰り道、みつお氏から「みなぽちゃんすごく安定感があったね」とお褒めの言葉をいただいた。立合川のときズルズルで登れない私を見て「なんだよもっと練習してこいよ!」と内心思っていたので、今回やけに足取りがちゃんとしているのを見て急成長したと思ったらしい。
実は立合川のときはフェルトソールのせいで登れないこと多々で、その反省を踏まえて今回はステルスソールで来ていた。したがって登攀力とか沢登りの足周り技術が急激に上がったわけでは決してないのだけど、それでも、シーズンを通してみれば見違えるほど上達したのだろう。きっと。
だって、私も、自分の力で登っている感じがして気持ちよくて楽しかったんだもの。
行く度に力がついている実感があって、できることが増えていって、それがまたなおさら楽しい。
沢シーズンももう終わり。
季節の移り変わりは本当に目まぐるしい。
もっともっとと思っていても、待ってはくれない。
でも、必ず次のシーズンはやってくる!
相変わらず行きたい沢は増えていく。
充実した素晴らしいシーズンと、一緒に行ってくれた人々に大感謝。
これからも楽しみだなぁ。
タッチ! あ! GO!!!【後半】
南紀・立合川(たちあごう)の記録、後半です。
*
2日目(9/22)
「え、寝てないの!? 危ないじゃん! 行動できるの? 気をつけてよ!」
という血も涙もない言葉で一日が始まる。
下界であれば一睨みしてお尻を蹴り飛ばしたのち一晩かけて剥がした数十匹のマダニ入りテントに幽閉でもしてやりたいところだが、ここは沢。わたしは遡行したい。
立合川が待っているんだ。
(一応ちょっとだけ心配してくれてたらしい)
で、寝不足の割にはシャッキリとした頭で行動開始。
木馬道が途切れる手前のルンゼから沢筋に降り、小さな滝を越えると一旦ゴルジュが途切れる。
でもほんのちょっと進んだところからすぐにデンと両岸が立ち、第三ゴルジュ突入。
現れた5 m滝は釜が大きくて登れそうも無い。
釜の奥の方へ、右の枝沢から落ちる大きな滝だけちらっと見物して、右岸の岩壁から巻くことに。
しかし、この岩壁、下部の3〜4 mほどが完全なツルツル。
「えええ〜〜〜ここ行くの〜〜〜」
「だってここしかないよこのくらい行けるっしょ〜〜〜」
トップはアクアステルスのフリクションでへばりついて登っていったけど、私のフェルトでは足を踏み出しては滑り、踏み出しては滑り。全く進めない。歯が立たない。
そう、よりによって、いつものステルス沢靴ではなくフェルトソールで来ていたのです。
というのも、とても岩がヌメっている沢なのでフェルトソールを強くオススメする、という沢登り界のえらい方の言葉を事前に聞いていたから。沢の経験の少ない私はこの言葉を鵜呑みにし、わざわざフェルト靴を新調して予備山行までして気合いを入れていた。にも関わらず、ここまで明らかにステルスの方が歩きやすそうな岩が続いていた。
ズルズル滑るし、スタンスに乗り込みづらいし、なんともやりにくい。
もしや靴の選択を間違えたんじゃないか、という思いが頭をよぎる中、満を持してこのツルツル岩の登場。
絶望的なまでに無力な足下。
結局、ハッチがあれやこれやと工夫して引っ張り上げてくれたおかげでなんとかスタンスのある場所まで上がることができました。
この大高巻きを終え、しばらく進むといよいよ第四ゴルジュ。
光のカーテンが出迎えてくれる。
竜の喉元に迷い込んだかのような。
死んだらこんなところへ来たいなぁ。
屈曲した谷に、白く短いナメと碧に輝く丸い釜とが交互に現れる。
竜が抱く玉、なのだろう。
お願い、もう勘弁して・・・。
とにかく変化に富んだとびきりの素晴らしい渓相が次から次へと現れ、私には刺激が強すぎる。
落ち着く間もなく絶景に襲われるんだけど、うっかり感動に浸って涙を流してしまっては危険だからと一生懸命我慢しているのだ。
だというのに、まったく、本当に、容赦が無い。
お願いだようーもうやめて〜〜!!
立合川「やめないもん!」
ヽ(*´□`)ノ
滝は人知れず地を叩き続け、
岩をくり抜き、
切り裂いてゆく。
ゴルジュとゴルジュの間には森の沢歩き。
緑が深く濃く、沢筋に通うほんのり涼しい空気が頬に気持ちいい。
こうして第五、第六、第七とゴルジュを巻き、第八ゴルジュの入り口付近の河原を2泊目の幕場とした。
この日の晩ご飯は豚骨ベースの水餃子鍋。
ハッチの持ってきてくれたビリー缶、ただでさえボロボロだったのが山行中も順調に劣化を続け、ついに取っ手が取れてしまった。
ごまかしごまかし使うけれど、うっかりすると鍋が焚き火の火中に置き去りになってしまう。おかげでハラハラドキドキの楽しい鍋になった。
(追悼;今回の山行を最後にその短い生涯に幕を閉じたビリー缶、1日目の幕場にて)
水量のある滝が多いせいかここまであまり魚影はなかったけれど、小さな淀みに大小のハヤがたむろしていた。
私が近づくとサッと岩陰へ隠れる。
ところが、鍋を洗いに行くとあっという間に十数匹集まってきて、パクパクと食べかすを求めて手元に集まってくる。何度か手を突っ込むうちに、奴らも学習したのか手を入れても逃げるそぶりすら見せなくなり、それどころか喜んで集まってくるようになった。
かわいくて食べちゃいたいくらい。
網を持ってきてたら入れ食い状態だっただろうなぁ。
さて寝床に向かいしな首に手を回すとうなじにペットリ貼りついているものが。
びっくりして剥がしてみるとヒルさんじゃないのお久しぶりー!
グランドシートにマダニもヒルも陣取っていて、まったくもう冗談じゃない。
急遽川のすぐそばへツェルトを移動して寝ることにした。
ようやくの安眠を得ることができた、むしろ寝過ぎた。
*
3日目(9/23)
大寝坊。
3回鳴るように設定していた目覚ましに1つとして気付くこと無く爆睡していた。
私は起床係には向いていない。
いよいよ最終日、第八ゴルジュへ。
3日目ともなると期待感などとうに忘れてしまい、ただもうこの素晴らしい渓谷に浸っている幸せの中で恍惚として進む。
満たされすぎていて、もうオーバーフローというかおなかいっぱいというか、これ以上何かを求めるとかいう気持ちがなくなっていた。
ありがたい。こんなに素晴らしい場所にいさせてもらえて、ありがたい。
体力も余っているので、おニューのファイントラック水かき付きグローブを使って積極的にゴルジュ泳ぎ。
すいすい進む! まるで泳ぎがうまくなったみたい!!
ジリジリへつるより断然楽で楽しくって、2人が側壁を行っている間も私はカエルさんと一緒にチャポチャポ進む。
右手にはでっかい嵓が迫り、ゴルジュ気分もピカイチ!
長い廊下が続いたあと、目の前の壁がひときわ狭くなり折れる。
いよいよこの谷もお終いか・・・と少し寂しくなりながら岩をたどっていく。
と、そこには谷をふさいで天より落つる二条の滝。
不意打ちだった。
あまりにも神のようだった。
最後の最後に。
ああ。
もう、駄目だった。目が熱くなってしまって、うわぁ、とこみ上げてしまった。
山には神が宿る。
そのことはいろいろな山でたびたび感じてきたことではあったけれど、今回ほど、その存在をこれほど間近にしかも圧倒的に感じたことはなかった。
細くて、とびきり大きいわけでもない滝なんだけれど、
まるで目の前で山の神が美しい歌を歌っているような、澄んだ空間だった。
最後のゴルジュの、本当に最後。
ハチみつも別れを惜しむように写真を撮ったりぼうっと眺めたりしていた。
この滝を巻き大岩のゴーロ帯を進んでいくと、大岩に囲まれた水たまりにハッとした。
水は少し離れたところを流れていて、ここへ入ってくることも出ていくこともない。
まるで時が止まったようにピンとして微動だにしない水面。3匹のハヤ。
取り残されてずいぶん時間が経っているように見えるのに濁り一つなくて、こんなに上流なのに魚がいる。
さらに詰めていくと、かつて平家の落人が身を隠していたという八丁河原が広がる。
そこには朽ちた植林小屋があって、散乱した何十もの一升瓶は森に食べられ始めていた。
今となっては登山道からも遠く長い谷を遡行しなければたどり着けない場所に、かつて人がいたのだ。
そのままゴーロを詰め、最後に切り立った斜面を慎重に上がると稜線の登山道に出る。
あとは夢の余韻に浸りながら下山するだけ。
ホッとして、急におなかが減る。
京都から持ってきた生八ツ橋があることを思い出した。
遠くから来ている2人に関西ならではのものを少しおすそわけしようと持ってきていたものの、3日間完全に忘れていた。
取り出して3人で食べる。甘くて美味しい。
温かな日だまりの中、誰も居ない静かな奥駈道を進んでいく。
いい沢だったね。
すごいところだったね。
はるばる来てよかった。
もっと長く登っていたかったな。
今度はどこへ行こうか。
上葛川へ下山して、臭くなった靴と装備と身体を水で清め、バス停でひなたぼっこ。
集落で「どこへ行ってきたの」とおじいさんに話しかけられる。
「立合川です」と答える。
「たちあごう・・・」とつぶやいて遠くを見て少し考えたあと、「それはあっちの方だね」と山の向こう側を指し、また黙っている。
いくら地元の人でも山を歩かなければよく知らないのかな、と思っていると、「尾根の下の小屋はまだあるのかい」と尋ねられた。
あそこのことだろうか。沢を遡行しなければ行けないような小屋のことを知っているのか。
「八丁河原のやつですか? まだ残っていました、廃墟ですけど」と答えると、「そう、それや。昔は仕事道が続いていてな、わしが小学生くらいの頃は何日か泊まり込みでアルバイトしに行ってたんや」と意外な答えが返ってきた。
「あそこには林業をする人たちが住んでいたんだよ。わしはときどき手伝いをしに行ってお金をもらってた。何十年も前の話だな。もうあそこで働く人はいないが」
そうなのかと驚く。
人が時々行っていた程度だと思っていたら、住んでいる人がいただなんて。
「あの小屋はまだ残っているのかぁ……」と少し遠い目をして、おじいさんは庭の芝を刈りにテコテコと戻っていった。
*
立合川は本当に数え切れないほど見所だらけの沢で、全てまともに味わうには脳内リソースがあまりにも足りない。
次から次へと刺激強めのすごいやつが現れるせいで、遡行している最中だというのにすでに通り過ぎてきたゴルジュにどんな滝があったかとか思い出せないほど。
こんなに大いなるものに触れさせてもらえて、立合川には感謝してもしきれない。
ありがとう。ありがとう。ありがとう。
ただでさえ危なっかしいところがフェルトのずるずるによって4割増しになり、特に後ろからフォローしてくれたハッチには迷惑をかけっぱなしだった。
すみません。ありがとう。
みつお氏は定番の鬼コーチモードで、何度か怒られた。
うむ。
いま、遡行から1ヶ月くらい経って断片的だった記録をまとめていて、遡行中は忘れていた細かいことをたくさん覚えていることに気付いた。些細な会話やルート取り、どういうところで渡渉したとかの細かい動き、どの順番で何が登場したか。
きっと、一つ一つのことに集中していて、目一杯に楽しんで、いっぱい感じ取るものがあったんだろう。
東京から来た2人も、はるばる来る価値があった本当に素晴らしいところだったと大喜びしてくれていた。
そんなにたくさんは来れないけれど年に1、2回は遠征したいとか言っていた。
おうおう。どんどん来てくれ。
思い切って紀伊の沢に誘って、本当によかったよ。
思いが深まる山行だった。
しばらくしたらまた行きたいな。立合川。
*
ハッチの記録→
9月21-23日 北山川支流 立合川 - ウィークエンド・クライマーのチラシの裏
みつお氏の記録→
タッチ! あ! GO!!!【前半】
「深山幽谷の淵を覗くとき、人は身を硬直させるほどの戦慄を覚える。そして、淵が神の座であり、淵を核とした一帯が聖なる空間であることを身をもって悟るのである。」 ——野本寛一『神と自然の景観論』より
シルバーウィークは東京からハッチとみつお氏(以下、ハチみつ)の2人を迎え、南紀の立合川(たちあごう)に行ってきました。
なんて平然と言ってみたけど、実際のところ今回ばかりは1ヶ月以上前から行き先を考え装備やらなんやら準備をしドキドキワクワクそわそわしながらこの日を待っていました。
というのも、私にとって初めての上級沢であり、はるばる遠征してくる2人にとっては初めての紀伊半島の沢なのです。特別な山行なのです。
事前に手に入れていた資料(『南紀の沢』)によると、
「見所:取り上げれば切りのないほどたくさん
注意点:数多く難しい」
という。なるほどわからん。
行った方に話を聞くと、とてもいいところなのは間違いないらしい。
8つもゴルジュがあるぞ。滝がすごいらしいぞ。美しい沢らしいぞ。
不安か期待か区別はつかないけれどとにかくドキドキわくわくで。
んで、結論から言うと、想像をはるかに超える素晴らしさと楽しさでもう、感激がオーバーフロー。
*
1日目(9月21日)
夜行バスで到着した2人を京都駅でピックアップし、一路南紀へ。
国道169号を走れば紀伊の名だたる名渓の数々への分かれ道があちこちにあり、妄想だけでおなかいっぱい夢いっぱい!
さて。
入渓はお昼ごろ、「立合川橋(たちあいかわはし)」から。
台風の後で少し荒れているかもという懸念を吹き飛ばす透明度。
私の後ろを歩くハッチも水の色を見てハイテンションうなぎ登り!
やはり水が綺麗なだけで期待度はぐんと上がります。
直前までお天気の心配をして転進先まで決めていたというのに何のことはない、ピーカンで真夏のような暑さ。これ以上ないほどの沢日和です。
ニコニコウキウキと弾む足取りで進む最初のゴルジュ。
大きな釜を持つ滝が現れると、我慢できなくなったのかハッチが「ちょっと泳いできます」と言い残し釜にドボン!
黄色い歓声を上げるキャニオニングツアーのおねーちゃん達のそばを忍者っぽい泳ぎ方でのびのびと泳いでなかなか戻ってきません(※)。
今日は入渓が遅いから急ぎ足でって申し合わせてたけど、こりゃあ急ぐともったいないや!
(※水が綺麗すぎて思わず飛び込むなんて無邪気なやつだと微笑ましく思っていたけど、翌日まで「可愛いおねーちゃん何人も連れて行けて羨ましい、オレもあのガイドのにーちゃんになりてぇ」と何度もつぶやいていたので以下略)
ハッチがこちらに戻ってくるのを確認しつつ、滝の左にある傾斜ゆるめスラブ+樹林を登って高巻き。見た感じはヌメヌメで怖そうだったけれど、「大丈夫だよー」と言われ登り始めると案外フリクションが効き、ちょいっと行けました。
こういうの、見極められるようになりたい。
高巻きを終えると目の前にぱっとナメが広がり、思わずわぁっと歓声を上げる。
みんなニッコニコ。
まぶしい日差しを避けるように木漏れ日の下を通り抜けていくと・・・
第二ゴルジュのはじまりはじまり。
泳ぎとへつりで滝を越えていきます。日が高くなりいよいよ暑く、泳ぐと大変気持ちが良い。
まだまだ序盤戦なので体力温存のため泳ぎは少なめでがまんがまん。
水を浴びながら登る。
狭い空から差し込む日差しは水を貫き岩角を照らし、粒ぞろいの宝石のような輝きを見せる。
なんということだろう。
狭くうねるゴルジュをへつりながら進んでいると、轟音が聞こえてきた。
トップを行くみつお氏が「あっ!」と小さく叫ぶ。
「もしかして大滝!」
興奮を抑えつつ少し先へ行くと、大釜の端に水しぶきの末端が。
ひゃぁーーーー! きゃぁーーーー!! うおぉああーーーーー!!!
と叫び先を急ぐと、
でででん!!!!!
そこには、大きくえぐられドーム状になった岩盤と、ぽっかり空いた穴から落ちる迫力満点の滝、巨大な釜。
唖然とし、目をしぱしぱさせながら何度も何度もぐるぐると見回してみる。
現実味がない。
滝の落ちる音がドームに反響し、私の頭からつま先までを震わす。
なんかもうわからない、何がどう奇跡だとか神秘だとか素晴らしいとか迫力があるとか美しいとか頭から吹っ飛んで、ただ圧倒されるのみ。
他の2人も、この想像を絶する光景に、言葉を失っていた。
しかしこの空間は魚眼レンズでもなけりゃ到底写真には収まりきれない。
圧倒的な雰囲気も、カメラでは全く平坦なものになってしまいその1割も伝わらない。
飛び込んだり泳いだり眺めたり、たしか30分くらいは滝壺で遊んでいただろうか。
さて、ここからが今日の核心である大高巻き。事前のリサーチでも苦労しているパーティーが見受けられた。
滝の少し手前の小さなルンゼから上がっていってみる。不安定な泥付きの急斜面を這い上がると巨大な岩壁が立ちはだかり、横へ行くにも上に行くにもかなりシブい。ハチみつがいろいろと知恵を絞る。
こんなに苦労する高巻き初めてだ! と内心わくわくしつつも、緊張するところだし迷惑かけちゃならないので不謹慎なこと言わないように……とまるで忠犬のごとく大人しくセルフのスリングに繋がれじっとゆくえを伺っていたら。「高巻きが悪くて上級沢って感じしますね〜たーのしいっすね〜!」と隣で満面のニヤニヤをかましているハッチが。かたやみつお氏は腐って皮がはげ落ちつけ根しか残っていない木の枝に両足をのせ、この上はどうなっているとかあーだのこーだの喋っている。
……なんや君らも変態か。
結局、この高巻きはかなり厳しいということになり懸垂2ピッチで沢に降り、作戦を練り直して、さらに手前の銚子滝のそばのルンゼから再び高巻きへ。
岩が脆く、手で掴んだそばから崩れていく。なんとか体重を支えられるホールドをと注意深く探りながら進んでいると、上から「信頼できるホールドなんて探したってない! こういうところではごまかして進むしかないんだ!」と指導が飛ぶ。
な、なるほど〜!
発想の転換:「信頼できるものなど何ひとつ無い」
じんわりと体重をかけつつ、崩れる前に上へ。
さっきまでびくびくしていたのは何だったのだと思えるほどサクサクと上がっていった。
ほどなくして古い木馬道にたどり着き、ホッと胸をなでおろす。
沢登り、全部スムーズにいくより少しくらい試行錯誤して行ったり来たりしちゃうくらいの方が探検っぽくて楽しいな(私は何も役に立ってないけど)。
出発が遅かった上に高巻きのあーだこーだで時間を食ってしまったので、今日は木馬道の上でビバーク。
早速、盛大な焚き火をこしらえる。
3日間漬け込んだ塩豚ときのこ・野菜でホイル蒸しを作ってあげたらえらく美味しかったらしく、うめぇ、やべぇ、すげぇ、うめぇ、やべぇ、とほおばってあっという間に平らげてしまった。やはり山で肉は正義である。
明日の朝ごはんで食べるデザート用にと、沢の先輩直伝の山プリン(スキムミルク+プリンの素)を仕込んでおいた。
暖かく静かな夜。星が遠くで瞬く。よくはしゃいでよく登ってよく食べた。増水も滑落も心配いらない、いいビバークサイトだ。
ぐっすり寝よ…………ん??
なんか太ももにムズっとした感じが?
ズボンに手を入れ肌に触れてみると、、ま、ま、ま、マダニくっついてるーーー!
叫びたいのを必死にこらえ、ひっぺがした。
嫌な予感がし、さらに手を這わせてみると何匹もくっついているではないか!!
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁああああぁぁああああああ!!!
マダニ、噛みついてしばらくすると手では取れなくなり、延々と血を吸い続け肥大化していくという恐怖の噂を聞いていた。一刻も早く駆除せねば。
脚やら腹やら背中やら胸やら腕やら首やら顔やら、とにかく全身のマダニを、20匹以上夢中ではがした。
ふぅ、災難だったな。もういないだろう。寝よ……ん!?ムズっ!?!?!?
手を伸ばすと、またマダニーーーーー!!!
一瞬にしてまた数匹くっついている。半泣きではがす。
しっかりとシュラフにくるまり、再度全身をチェックした。もう二度と入ってくるまい。
ようやく私にも安眠がおとずれ………ん? ムズッ!?
(以下エンドレスリピート)
恐怖にとらわれ、結局、一晩中マダニを剥がし続けて朝を迎えた。
しぬかと思った。涙も涸れ果てた。
よく気が狂わなかったものだ本当に。
ちなみに、他の2人はすぐそばで寝ていたにもかかわらずほとんど被害無く、オールナイト熟睡を堪能していた。
なぜだ。
日頃の超健康的食生活のせいかそうなのか。それにしてもあんまりだ。
(後半へ続く)
デストロイヤー・カオレ(後編)
奥美濃は板取川の川浦谷での沢登り後編です。
デストロイどころか癒やされてきゃぴきゃぴ楽しんだ話しになります。
*
翌日は川浦谷本流ゴルジュ。
トポを見ると、滝は小さいのが数えるほどしかなく、残りは長大なトロ! トロ! トロ! トロ! トロ! トロ! トロ! トロ! トロ!!!(※魚ではない)
中には100 mにもなる瀞も2つあるらしい。
(参考資料:SOLOIST「川浦谷ゴルジュ」)
海ノ溝が早々と敗退になったので、前日のうちに橋の上から入渓点付近を伺って作戦を立てました。
というのも、本流は最初の方にある滝と瀞が核心。
おわかりいただけるでしょうかこの白泡パラダイス。
橋のあちこちの欄干から身を乗り出して、ああでもないこうでもないと話し合います。
この狭さにこの水量。
すんごいスピードで流れていて、ちょっと見たところでは陸上生物立ち入り禁止区域である。
そのくせよく見れば弱点もあるにはあるから、がんばれば行けちゃうのかもしれない。と思えないこともない。ドキドキ。
ぱっと見無理そうなところで少し隙を見せて行きたい欲をそそらせておいて殺しにくるパターンやで、これ。
でもやはり、ここを突破しようとするとどれだけ時間がかかってしまうかわかりません。
なので今回は最初の核心を外して遡行をして、戻ってきて時間が余れば核心部にトライしようということになりました。
それにしても、すぐ頭上まで観光客が来ているとは思えないほど、川浦は美しい谷です。
海ノ溝で鍛えられた私にとっちゃあ、このくらいのへつりはなんのその(でもロープはお願いね)。
核心をすっ飛ばした本流は、前日の海ノ溝とは打って変わって恐ろしい場所も陰鬱な雰囲気も無く、明るくて穏やかで、その優しさが頭からつま先までしみわたります。
次から次へと現れる長い長い瀞を、ひたすら泳いで遡上していきます。パートナーが。
私は、ザックをビート板代わりにしてキャッキャ言いながらロープで引っ張ってもらうだけの楽しいおしごと!
楽しすぎるので、ぷかぷか浮かんだまま辺りを見回してみたりお魚を探してみたり雲を眺めたり、気楽なものです。
水が多い沢は、流れを読んで泳ぎのラインをつかみ、不用意に体力を奪われないようにしながらいくのが重要とのこと。
泳ぎでの渡渉の仕方やロープワーク、気をつけるべきこと等を実践を交えて教えてもらいつつの遡行でした。
それにしても、私の泳ぎの前に進まないことといったら!
ためしに流芯をトラバースして渡渉しようとしたら、少し下流の岸に到着するはずが流芯のところでぴゅーっと流されてしまい、横切るどころか岸に一向に近づかないままどんどん下流へ。流されることを見越して下流で待機していたパートナーにひょいっと引っ張り上げられてしまいました。
一方、体格が良く泳ぎの得意なパートナーは、何食わぬ顔ですーいすい。
くーーーっ!!
でも泳ぎながら顔の周りをメジロアブにつきまとわれていたので、泳げるのも楽じゃ無いなと思いました。はい。
泳ぎ、練習しなきゃ。
瀞の美しさに息を飲み、屈曲点が来るたびに次に来る景色へのほのかな期待に包まれる。そしてまた再び澄んだ瀞が現れ、うっとりとため息をつく。
泳ぎ続ける体がほんのりと気だるい。
くらくらするような日差しと、艶やかにまとわりつく水と。空には雲が流れ、谷を流れる風に木の葉が音を立てる。
こんなことを何度もくり返しているとだんだん頭の中がとろけてきて、恋の魔法にでもかかったみたいに甘くて幸せで優しい気持ちになります。
川の時間はあんまりにも悠然として今日がこのまま終わらないかのよう。と思った次の瞬間には、やがて終わりが来るのでは無いかという恐れとそれでも進み続ける切なさに襲われる。
ああ。魔法だ。できることなら、ずっとかかったままになっていたい類の。
恋の魔法、かかったことないから想像やけどね。
で、永遠だのなんだの思いながら昼前には遡行を終えてしまったので、空身になってお約束の核心部へ。
懸垂下降でゴルジュの底に降り立つと、山岳会らしきパーティーと鉢合わせ。長い間行く先の様子を伺って、どうしようかと頭を悩ませているような雰囲気です。
それもそのはず、なるほど納得この水量。
この滝、落差は1.5 mですが、紛う事なきデストロイヤーです。
右岸から巻いて落ち口へ上がる記録もありましたが、落ち口から先の右岸にはかなりホールドが少なく、泳ぐにもへつるにも渡るにもこの水量で万が一流されてしまってはこの白泡の藻屑となることは必須。
上で確保してもらいつつ先に私が独力で行く必要があると言われました。一応ロープはつなぐけれどほとんどフォローのしようがない場所。見下ろしてみると結構小さなスタンスのヌメリクライムダウンのあとにホールドの無い右岸(しかも直下にはデストロイヤー)。
むりむりむりむりむりむりむりむり。
パートナーも、やめたほうがいいねと言う。
随分迷った挙げ句、比較的ホールドが多く巻いた後も流されずに済みそうな左岸からトライしてみようということに。
いよいよ、右岸から泳いで取り付きます。もちろんパートナーが。
長い時間水に浮かびながら滝をじゃばじゃば浴びて格闘しています。どうも支点を取るのに苦労している様子。
「がんばれー!」と叫びたいけれど、滝の音で何と言っているか聞こえないだろうし、突然声だけ聞こえるとびっくりさせちゃうかと思いガマンガマン。
この滝のところへやってきて1時間近く粘っていましたが、帰らねばならない時間が近づいたので諦めてしまいました。
パートナー曰く、ホールドがヌメヌメでスカイフックを引っかける場所すらなく、唯一のクラックはフレア気味でカムを挟んでもすぐに引っこ抜けてしまったのだそう。
この間、鉢合わせしたパーティーの方は私たちの様子をじっと見ていました。
撤退する間際に少しだけ言葉を交わしたところ、今日の川浦谷はいつもより20 cm以上水量が多いとのこと。
なるほど、そりゃあなおさらなおさら厳しいわけだわ……。
てなわけで、
ちゃっかり記念撮影だけして、
てった〜い!
川に流されるのもだいぶ上手になりました。へへ。
岩と水とわたし。
ゴルジュに抱かれる。
「ジロジロ見てんじゃねーよ」
この二日間で、買ったばかりのタイツがまるで死闘を繰り広げたかのような有様に。
通りすがりの観光客のおばちゃんからも「あなた、びりびりに破けてるじゃないの〜!」と顔を歪められる始末。
ごめんなさい。
*
今回は2日とも敗退になってしまったものの、とても充足感を得られた沢登りでした。
私なりにこれまでできなかった事やしたことのなかった事を、気付いたらいくつかやっていた。
もちろん書くまでもないような些細な事ではあるんだけれど、ただ引っ張っていってもらったり構ってもらったりしているだけのところからほんのちょっとだけ「パートナー」に近づいた、ような気がする。
技術的にもいろんな知識を得たし、シビアなゴルジュがどんなところか知ることもできた。そしてまた素晴らしく美しい沢に出会うことができた。
こんなに贅沢な週末って、ほかにあるだろうか。
また行きたいな。川浦谷。
ちなみに暇を持て余して郡上八幡観光に連れ出されたけど、川浦谷のことしか考えてなかった。
デストロイヤー・カオレ(前編)
ドドドドドド・・・
林道に響く轟音。
あまりに狭く深い谷は、上から見下ろしても木々で覆われて見ることはできず、
ただその異様なまでに太い水の音が空までも包み、ここへ近づいてはならないと我々を威圧する。
てなわけで、奥美濃は川浦(カオレ)谷の海の溝洞ゴルジュと本流へ行ってきました。
カオレはいつか行ってみたい沢としてポロッとつぶやいてはいたものの、こんなに早く行くとは思っていませんでした。
7月最後の日曜日。
別の沢からの帰り道に携帯をチェックしてみると、パートナーから「来週末は電車の切符取れるから日程的にカオレとか行けちゃうな、カオレいいな、行きたいな、行けちゃうよ、あ、でも、嫌ならいいんだよ、みなぽちゃんの好きなとこでいいんだけど、どっちでもいいよ、ただ、カオレ行けるんだよね、カオレいいとこだよね」(超訳)というメール。
もともと台高のとある沢に行くことになっていたのですが、そんなに行きたいなら今回は譲ろうってことで、カオレに決めちゃいました。
せっかくカオレに行くんなら、海の溝洞とかおがんじゃおう。
とはいえこれまでに経験したこともないような大変なところなので、撤退の際の見極めと判断の方針のようなものだけは、事前に確認し合っておきました。
——どこかを完遂することよりも厳しいゴルジュを経験することを重視する。入り口で引き返すのではなく、できるだけ進んでみる。でも本当に無理そうだったら、敗退する。
懸垂下降してゴルジュの底に降り立った。顔を上げた瞬間、足がすくむ。
岩はぬめり、水がすごい勢いで流れている。
・・・これは、飲まれればひとたまりもない。
ほんの1メートルほどの滝も、水に推されながら体を運ぶのがすごく大変。
足を滑らせればぴゅーっと流されてしまうので、一挙手一投足に集中を要する。
丸太を超える。
深さはほんの20 cmほど。
足を川底に置く前に流れに足を持って行かれてしまい、手だけ丸太にしがみついて宙づり状態に。とっさにパートナーが足を差し出して支えようとしてくれたけれど、足を置こうともがいても水に押されて虚しく水面をばたつくだけである。
丸太を握る手も段々と力が入らなくなってくる。
仕方がないので、一旦流されて、もう一度トライして、なんとか超えた。
これまでの沢であれば難なく超えていたような障害が、この流れによって全てデストロイヤーと化している。
どこかの記録で読んだ「全てが核心」というのは、本当だったんだ。
ここは、人間が長くいる場所じゃない。
今、なんとか落ちずにいることが精一杯で、小さなミス一つでいつ死んでもおかしくない。
とはいえ恐怖に押しつぶされているわけにもいかないので、集中力を高めて慎重に先へ進む。パートナーは沢上級者ではあるけれど、フォローじゃどうにもならないところやフォローしている場合じゃないところが多く、私の乏しい経験と知恵と体力を振り絞ってなんとかヌメヌメにしがみつき必死で体を支える。
……でも、そのときはあっという間にきてしまった。
2 mほどの滝を巻き、川に下りようと足を置こうとした瞬間、 再び足を持って行かれた。
あっけなく滝壺に落ち、白泡に飲まれ、水が口に入る。息が出来ない。
もがいても体は水に翻弄されるがまま。
やばい。溺れる。
と、右の視界の隅に岩が見えた。
ぬめっていてホールドもないが、とにかく手をのばす。
パートナーが呼ぶ声が聞こえる。
私は屈曲点の先まで流されてしまっていて、互いにその姿は見えない。
絶え間ない轟音。
口をあければ水を飲んでしまうので、とにかく、とにかく岩へ手を伸ばす。
・・・ロープが、少しのびたようで、手が届く。
白泡から外れた!
やっとで体が浮いた。流れに押されるがまま、岩へ体を押しつける。
こちらも叫び、生きていることを伝える。
とはいえ流れに押しつけられているだけなので、
要するに流されている状態であることに変わりはない。
・・・落ち着こう。
周りをよく見る。
少し先の岩に、筋が入っている。
ハーネスにつないだロープはビンビンに引っ張られていて、ビレイループは脇腹のあたりにある。自力で外そうとしたが、無理。
スカイフックを岩のどこかにひっかけて体を支えるしかないか。水の中で踊るギアを手探りする。
パートナーから、再びコールがかかる。
「ロープを外せ!」
「待って!!」と返すが、聞こえていない様子で、何度もくり返し「ロープを外せ! ロープを外せ!」と叫んでくる。
もしかして、パートナーの方も引きずられて結構危うい状況なのではないか。
スカイフックを掴んだ!
少し先の岩へ引っかける。わずかに体が緩む。即座にロープを外す。
ホールドのある岩陰まで流されて、小さなテラスによじ登る。
一呼吸置き、セルフビレイをとり、ようやく体の力を抜く。
・・・よかった、助かった。
「もう大丈夫!」と叫ぶ。
「帰る?」と聞こえる。
「帰る!」と即答する。
なんかもう、気力を使い果たした。
敗退。
パートナー曰く、あの先にはさらにデストロイヤーがでん!でん!でん!でん!と連続しており、
それはもう途方に暮れる光景だったという。
それならなおさら、潔く諦めがつくというものだ。
帰りは下降するしかないので、流れを見極めてもらいながら慎重に下っていく。
ひやっとするようなきわどい箇所もある。
シャワーの滝に斜めに光の筋が差し込んで、異世界感に拍車をかけていた。
光のある世界へ。
(※溺れているわけではありません)
最っっ高に楽しかった!
そうです、すんごく怖かったのに、これまでにないくらい面白さと充足感を感じたのです。
魔力に取り憑かれるって、こういうことかと思う。
モチベーションだのなんだのはよくわからないけれど、とにかく、もっと力をつけて、絶対にまた会いに来なければならない沢だと感じた。
頭の中で、もう、ずうぅっと、海の溝で見聞きしたあれこれが頭の中を占領して離れてくれないのだ。たまったもんじゃない、今回で終われるはずがない。
敗退ではあったけれど、圧倒的な山の力を感じ、自分の力を知り、危ない思いもし、心に燃えるものを得た。パートナーとの意志疎通の確認もできた。ちょっと経験を積むというにはあまりにも豊富な収穫だった。
その夜は轟音が響く空に所狭しと星が輝いて、空だけ見ているならばまるでロケットに乗って宇宙へ出かけているみたいでした。
そして興奮冷めやらぬまま思い出しニヤニヤしながら麻婆豆腐を作っていたら、お豆腐を地面に落としてしまいました。
お豆腐さん、ごめんなさい。
(※)このときの事故について振り返ると、
①流されそうな場所ではロープをハーネスにつけてはいけない
……ロープがいっぱいになった場所で固定されることで溺れてしまう危険がある。もしも流されたとき、すぐにロープを手放して少し先まで流されれば、流れの緩む場所に体を置ける場合がほとんどであり、そのほうが安全である。
②女性は比較的体重が軽いため、水量の多いゴルジュに不向き
……そんな悲しいこと言わないでおくれよと言いたいところだが、これはある。水の中ではなんとか下半身に重心を置くことで踏ん張って耐えられるが、水の上から足を入れるときが鬼門。充分に足に重心を移せないうち(というか足をつく以前)に水に持って行かれる。確実に大丈夫な場所があれば、ドスン!と落ちたほうがいいが、それで体のバランスが崩れれば結局流されるので、なかなか難しい。
③ロープを手放すのは私ではなくトップのパートナーでもよかった
……一般的に、トップがロープを手放すというのは即敗退を意味するが、このとき使っていたのはお助け用ロープ。別に50 mロープも持っていた。事故時はそのことをすっかり忘れてしまっていた。
特に、今回のようにパートナーから見えない場所で溺れるというのは、互いに状況がわからずとても危険だったと思う。
パートナーの方も私が溺れている可能性を考えて動いてくれていたのだとは思うが、相手が見えているのと比べると判断のスピードも精度も当然落ちる。今回は苦し紛れの運任せ(私から見ると)でなんとか脱出できた。危険箇所では考えうるリスクや落ちた場合の対応など確実に確認しあいながら進んでいくことが必要だと感じた。
そして、もっと安定して登れる技術を身につけ、ちゃんと作戦を練って、こんなに水量が多くない時を狙って、また行かねばならない。
*
ちなみに、ちゃんとした記録はパートナーが書いています。
「カオレゴルジュはじめ」—雪中松柏愈青々
私が溺れていたそのとき、パートナーは・・・!?
沢登る
ごぶさたしています。
文章はちょっとずつ書きためているのですが、はてなブログの写真アップロードの調子が悪くなかなか記事にできていません。
なんでだろうー。
*
最近あらためて、人が山に登る動機はいろいろあるんだなあということを思い知る。
自分に自信を持ちたいがために登る人もいれば、ただただ息を吸いごはんを食べるように山を歩く人もいる。頑張ってトレーニングをして難しい山にチャレンジする人もいれば、できることを長く続けている人もいる。虚栄心のために山に登る人も功名心のために山に登る人も、下界での息苦しさを紛らわせようと登る人も嫌なことを忘れるために登る人も。人生の答えが欲しくて登る人も、征服ゲームのようにして登る人も。本能のまま欲している人も、葛藤の中素直に楽しめない人も。
でも、動機が不純だの純粋だの、頑張っているだの頑張っていないだの、そんなことに対して山は関わり合いにならない。
汚いも綺麗もなくって一個体の生物としてそこに居るだけになる。
だからこそ山に救われてきたし、なくてはならない存在なんだな、と、改めて感じる。
*
このごろは沢登りにはまってしまって、沢ばかり行っています。
沢登りのいいところは、山自体が大きな生き物に見えたり全身で自然に触れている感じがしたり水に入るのが気持ちよかったり渓谷が美しったり。
というのも大きいのですが、とにかくできる工夫はなんでもしちゃうというのがとても楽しい。
「沢登り用」として用意されたものだけでは沢登りにはちっとも足りないから、何でもするのです。
ルールなんてない、従ってズルもない。とても自由で、脳みその中が晴れ晴れとします。すごく、泥臭い。
そんな感じで沢にいると、尾根を歩いているときよりもより一層、いつまでも人間がちっぽけでい続けられるような安堵の念に包まれるのです。
あぁ、好きだなあ。
人のを見て感心しているばかりじゃなくって、自分でも知恵を絞れるようになっていきたいものです。
そしたらきっとあと10倍楽しい。
楽しすぎて破裂しちゃったらどうしよう。
……つい長々と書いてしまった。
今週末ゴルジュに挑戦するためにあれこれ買い込んだもの、
忘れずにパッキングしなきゃ。
新緑まぶしい奥ノ深谷へ
さぁーーて、奥ノ深だよんっ♪
脳裏に利尻の吹雪や白山の雪原がちらつき、上がりゆく気温に抗うように雪山の恋しさが募る。
でも、ね、にんげんいつだって、いまを生きなきゃならんのだよ。
というわけで、雪山諦めて、沢です。
未練を断ち切るのです。
去年沢足袋を腐らせたついでに見切り発車でステルスソールの沢靴を買っちゃったし。
沢、いかなきゃ。
アクアステルスデビューは、比良で一番のべっぴんさん、奥ノ深谷です。
ただ、行ってみたいってだけでチョイスしたのはいいんですが。
ヌメヌメだよ。
つるつるだよ。
このあと滑って落ちてカム抜けた。
滑って落ちてなんとかゴボウで登った後になって「ステルスソールでぬめり沢に行くとめっちゃ難易度上がって初心者向けじゃなくなる」と教えてもらったのですが、ここまで来てしまったら「ですよね」としか言いようが無い。
でもいいんだ、水を浴びながら登るのすっごく楽しいから。
沢登りは、以前ロープを使わないくらいの簡単なところでちょっと何度かお遊びについていった+大学でのフィールドワーク程度の経験しかなかったので、小滝をいくつも登っていくだけで心が躍る!
それに、久しぶりに見た山の緑があまりにもキラキラしていて、もう完全に虜になってしまいました。
泳いでも、登っても、落ちても、滑っても、すべてが楽しい。
おにぎりが美味しい。
水も木々も岩も苔も全てが美しくて、その一番中心をずーっと登っていく。
沢は、山のいのちだよ。血管だよ。
躍動していて、生き物の宝庫で、全身で山を味わうことができ、懐深くに抱かれているような感覚になる。
と、沢登りの経験なんてほとんど無いのに悟ったようなことを思いました。
あの滝を登ってもっと先へゆけるなんて、すっごくわくわくするしね。
っていうかやばいわ。
沢登り、好きだ。
奥ノ深が綺麗すぎるだけだとか言われてもそんなん知らん。
山の特別な場所にいさせてもらっているという感じがとても強くて、やや恐縮しながらも今までに感じたことのないような静かな興奮と山への愛の深まりを感じました。
登山道との交差点に着いて、「残りはゴーロ歩きしか無いからここで装備解除ね」とか言われても、ゴーロだろうが関係ないもっと上まで水が無くなるまで登る! としばらくごねて、同行者がどうしても登るのやめたいと言うので仕方なしに登山道を歩いてあげてる間も実はちぇっと口を尖らせてたくらい、惚れた。
そしてここからさらにどっぷりと沢にハマってしまうことを、このときの私は知るよしもなかった、わけがなく、雪が降るまで沢登りまくろうと心の中で誓っていましたとさ!
うへへ。
それにしても初心者がヌメリ沢にアクアステルスは無謀だった。
さらに言えば沢登りにメガネは向いてない。
幻の白いドームを見に〜白山で山スキーデビュー
突然ですが、私が生まれて初めてスキーというものをしたのは去年のことでした。
今年、2回だけスキー場で練習をし、空荷でシュテムターンができるようになりました。
もっといっぱい練習して、いつか山スキーができたらいいなあ、いつか・・・
鬼 「 今 で し ょ 」
Σ(*・д・ノ)ノ
ええっと……
鬼 「いけるいける、大丈夫」
ほ、ほうか……?
鬼 「滑れないときは歩けばいいし」
そう仰るなら……。
というわけで、利尻バリエーションが潰れてしょんぼりしていた私をまんまと騙して慰めようと、鬼ことみつお氏が山スキーの指導がてらご一緒してくれることに。
人生4度目のスキー、初めての山スキーとして、滝壺に雪と氷の巨大なドームが形成されるという百四丈滝を求め、GW後半に2泊3日の白山。
バスを降りたら、板を背負い(シートラというらしい)、林道をてくてくいきます。
後に待つ試練を、このときはまだ知るよしもなかった……
小雨の降る中、慣れない兼用靴を履き、雪が充分にあるところまで、シートラで藪の急登を登っていきます。
板に藪がひっかかりまくって大変!!
靴も歩きにくい!!!
それでも雪がつながってシール歩行を始めると、快適にさくさくと進んでいきました。
つぼ足やわかんが馬鹿らしくなるくらい、すーいすい。ツリーホールもなんのその!
スキー、文明の利器や……。
とろけるような甘い色の空。
ひんやりと頬を撫でる風。
空気や色が刻一刻と繊細に移ろう夜と昼との境目の時間は、山で過ごす最も好きな時間のひとつです。
最初の藪漕ぎに手間取ってしまったためヘッデン行動になってしまいましたが、無事に小桜平避難小屋に到着しました。
避難小屋は新築の木の香りが気持ちよく、立派なお手洗いもある快適空間!
さてさて翌日は遅めの行動開始。
目を覚まし小屋の外に這い出てみると、どっっぴーかん!!
ひゃー! ひゃー! ひゃーーーー!!
今日は白山アタックのみなので、のんびり進んでいきます。
なだらかな斜面を、シュッパシュッパ。
雲海と、青空と、雪と、柔らかな日差しと。
極楽極楽。
このあと、斜面がクラストしてきたのでクトーを装着。
風も強い。
ほどなくして急斜面をトラバース。
これまでにも増して風は強くなり、
雪の下が凍っていて、ずるずる落ちていく。
アイゼンにピッケルならばなんてことはない風と斜面なのですが、足下は滑りやすい大きい板に初めて履くクトー、雪に刺さるものと言えばストックの先っちょだけ。
じっとしていると勝手に意図しない方向へ滑っていってしまう。
こんなときにどんなふうに足を使えば、どんなふうに手を使えば。
こわくてこわくて、山でこんなにこわいことが未だかつてあっただろうかというほどにこわくて。
こわい、と何度も叫ぶけれど、ロープをつないでいるわけでもなく、助けに来てもらえるわけでもないので、その数十メートルをなんとか必死にこえました。
で、もうすっかり精神的にまいってしまったので少し調子を整えたかったのですが、パートナーのほうは「こんなんよくある」と言いながら止まることなく引き続き上へ。
とにかくついていかなきゃと、恐怖で震える足を諫めながら進んでいると、今度はアイゼンに履き替えろという指示。
え、ここ、急斜面やし、クラストしてるし、風強いし、立ってるだけでスキー滑っていくのに、え、よりによってここで履き替えるの……
でもまあ先の状況を見て指示を出してくれたんだろうと思い、慣れないスキー装備を、落とさないように、自分も落ちないように、手順を考えつつ、なんとか履き替えました。
慣れたアイゼンを履けたことだし、長い時間待たせているからとスキー板を抱え急いで登っていくと、こんどは「ちゃんとザックにつけとかなきゃ危ないでしょう!!!」と怒られる。。
さすがの私も、「山でスキーはいたの初めてで、いきなり怖い急斜面で、どんなふうに履き替えたらいいかもわからないのに、一人で取り残されていきなり全部完璧にできないよ」と言い返す。
山で死んだら誰にも何にも言い訳なんてできないのも、どんなに危ない状況でも初めての状況でもちゃんと自分で対処しなきゃいけないのも、百も承知なはずなのに、なんだかもう、あまりの怖さでいっぱいいっぱいで、かたや慣れて余裕の表情を浮かべているパートナーがどうしてもうちょっと配慮してくれないんだろうという思いもあって、つい甘えたことを言ってしまった。
スキーが怖いだけでなくて、怖さでいっぱいで周囲が見えなくなっていることも怖くて、とにかく、すっかり駄目でした。
ここから先、大汝峰に着いて座ってしばらくするまで、ずっとガタガタ震えていました。
きちんと自分の思っていることを言えたらよかったんだけれど、襲ってくる恐怖とちゃんとしなきゃという思いとで、パートナーにどうして欲しいのか自分でもよくわからないまま言葉も見つからず、大丈夫だよと笑ってはぐらかしながらずっともやもや。
このときの恐怖で、スキー板を履くことそのものがすっかりトラウマになってしまって、履くだけで身体が硬くなり膝ががくがく、胸がばくばく。
ただでさえ下手くそなスキーが、もう本当に全く滑れない。
自分でどうにかしなきゃ、とにかくついていかなきゃと思うほどいっぱいいっぱいになっていって、山はこんなにも美しいというのに心から楽しむことができませんでした。
これが翌日下山するまで尾を引くことに……。
翌日も、快晴。
いよいよ百四丈滝です。
小桜平からは小さなアップダウンがあり、なかなかスキーの活躍する場がありません。
でっ、でーん!
でかい!
ほんまにドームができてる!
いまいちのびのびとした気持ちになれていなかった私も、
思わずテンションが上がります。
パートナーはスキーでとっとと滝壺の方へ滑り降りていきます。
私は、アイゼンピッケルの圧倒的安心感に甘えててこてこ小走りで下っていきました。
快晴の雪山で水しぶきを浴びながらのんびりと滝を楽しむ。
おそるおそるのぞき込んでみても、暗くて底は見えません。
「これ、美味しそうだよね」
「プリンみたい」
「巨大牛乳プリン!」
「たべたい……」
「好きなだけ食べられるね」
「……じゅる……」
(以上、脳内会話)
巨大牛乳プリンを振り返り振り返り、加賀禅定道のほうへ登り返します。
白山のたおやかな風景を楽しみながらの快適な歩きです。
ちょっと暑いけど。
スキーにさえ乗らなければ快調なのさ!(駄目
緩い斜面を見つけては板をはくようすすめられるけれど、言われれば言われるほど頑なになってゆく心。
板に乗る気になんてなれない。ユウウツな気分になって黙り込む。
ああ、パートナーにイライラさせちゃってるかもなあと思いながら黙々と歩いていました。
山スキーなんて嫌い、大っ嫌いだ、と思いながら歩いていても楽しくない気持ちが大きくなっていくばかり。
ネガティブな気持ちで満たされていてはせっかく山にいるのにもったいない!
これはあかん!!
と思い直し、
置いてけぼりくらっているのをいいことに一人で立ち止まり、目を閉じて、鳥の声を聴き、風を感じてみる。
ほのかに春の生命感が山を包んでいることが全身で感じられて、山で目に映るあらゆるものが愛おしく感じられる。
ああ、やっぱり好きだなあ。
幸せだなあ。
で、いつもの山らぶらぶな自分のペースを取り戻しました。
あとはもう、シートラ藪漕ぎルンルンです。
藪にひっかかるのなんて山とのスキンシップのうちなので、ひっかかるたびに「んもう〜♡」って感じです。
素晴らしい。
ビバ藪漕ぎ。
そんなこんなで下山してみたら、史上最大級の靴擦れが発覚し、両足とも膝から下がぱんぱんに腫れ上がり、翌日の山行はおあずけに。
ああああ。
かわりに金沢のエリートヒルクライマーWAKA氏とともに能登半島を一周。
靴擦れした足を海水にちゃっぽんして死ぬかと思った。
こんなことになりながら「山スキーは楽しいから! ほんとだよ!」と言い張るパートナー氏の営業力の低さに苦笑いしつつも、
とりあえず来シーズンはスキーの練習くらいしといてやってもいいかと思ってしまう私は山に弱い。
神様仏様利尻様
利尻いきたいいきたいいきたーい!
バリエーションやりたーい!
東陵と東北稜なら我々にも!
という目論見のもと、青鬼試される大地支部を頼って再び北海道へ。
……のつもりが、出発直前にメンバーのうち1人、都合がつかなくなってしまった。
まあ、でも2人でも行けるよねということで、GW前に雪練をやってGWにバリエーションを狙う計画はそのままでいくことに。
この、雪練のためと思って行った利尻が、図らずして今回の遠征唯一の山行となりました。
土日を使い、土曜日は雪練、日曜日は北陵からのアタックという計画。
朝一番のフェリーで、いざ稚内港を出発です。
二等船室では乗客みなさん爆睡。
船室で喋ると迷惑だから喋っちゃだめと言われてしまい、私も爆睡。
途中、トイレに行こうと目を覚ますとそこには……
!!!!!
り、利尻………!!!!!!!!!
思わず叫んでしまいました。
正直、なめてた。
実物がこんなにもかっこいいものだとは思わなかった。
ただただ神々しく、息をのむ美しさ。
これが…利尻……。
フェリー側からはちょうど東北稜と東陵が見えます。
声にならない興奮と憧憬とで目は皿のまま、隅々まで舐めるように利尻を見回す。
こんな山に登れるだなんて身震いするほど幸せだと思いました。
惚れた。
(※注:まだ上陸すらしてない)
鴛泊に着いたら早速登り始めます。
例年より雪が多く、まだまだ厚々と残っていたけれど、締まっていて歩きやすい。
わかんをはいて快適に歩いていきました。
前日に降ったらしき霰が雪面に浮いていてかわいい。
今日は北陵の下部に泊まることにして、さっそく向かいに見える斜面で雪練です。
支点構築、各種ビレイ、タイムを計りながらのマルチピッチロープワークなどを日が暮れるまで反復練習。
利尻とじゃれ合って冷笑を買ったりもしつつ。
雲の上に傘雲。こんなんあるんだ……
翌朝は、パートナーの体調が悪く出発は遅めの時間に。
出発時から怪しい雲行き
終始猛烈な風と吹き飛ばされてくる雪とで、だんだん真っ白な世界に。
時々わずかに得られる視界を頼りに高度を上げていきます。
利尻はこんなもん、らしいです。
ほう。
とりあえず2人とも全身エビの尻尾ができていました。
モナカ雪ではあったけれど幸いそれほど深いラッセルはなく(一番深いところで太ももくらい)、順調なペースで稜線に出ました。
稜線ではさらなる強風。
命の危険をギリギリ感じないくらいの、強風。
全身で風を受けて!
風上に向かって身体を傾け、アイゼンをきかせながら一歩一歩進む!
たぁああぁぁぁああーーーーのしいっっっっ!!!!!!!
冬山はこうでなくっちゃ!!
こー、ごーえそーうな、きせーつーに、きーみは〜!
……すいません、危ないので写真は撮ってません。
で、山頂、視界なし。
お、晴れてきたぞ! ロウソク岩が……(心の眼)
40分ほど山頂にいて粘ったものの、晴れる兆しもないのですごすごと下山。
気を取り直してぽてぽて歩いていたら、晴れてきた。
空と、海と、純白の利尻と。
「白鳥はかなしからずや 空のあを海の青にも染まずただよふ」
山頂で視界が得られなかったのは少し残念でしたが、利尻はただただ凛として美しい山でした。
惚れ込む人、憧れる人が後を絶たないのも頷けます。
ここは、特別な山だ。
結局、急用ができて翌日の飛行機で帰らねばならなくなり、GWのバリエーションは取りやめに。
たった4日間の短い北海道でした。
フェリーから見えなくなるまでずっと、甲板から別れを惜しんでいた。
また絶対に来るよと夕陽に誓う。